遠隔医療とは、情報通信機器を活用して、離れた場所にいる患者への診療や、医師・医療従事者間の診断・診療支援などを行う医療の総称です。
「遠隔医療」というと、患者が自宅から医師の診察を受ける「オンライン診療」をイメージしやすいですが、遠隔医療はオンライン診療だけを指すものではありません。
医師と患者をつなぐオンライン診療のほか、医師同士をつなぐ遠隔画像診断や遠隔病理診断、遠隔コンサルテーション、遠隔カンファレンス、遠隔ICU、遠隔手術指導など、さまざまな形態があります。
医療機関にとっては、地域や施設を越えて専門医の知見を活用することや、医療資源が限られた地域への診療支援、医療従事者の負担軽減などにつながる可能性があります。
一方、遠隔医療の導入には、単に通信システムや機器を導入するだけではなく、どの医療課題を解決するのか、誰と誰をつなぐのか、どのような診療・支援を行うのか、院内外の運用体制をどう構築するのかを整理する必要があります。
医療関連企業にとっても、遠隔医療はシステムや機器を販売するだけで完結する事業ではなく、実際の医療現場で継続して利用される運用設計や、医療機関との連携体制まで含めて考えることが重要です。
本記事では、遠隔医療とは何かを起点に、オンライン診療との違い、主な種類、期待される役割、導入時の課題、医療機関・医療関連企業が取り組む際のポイントまで解説します。
遠隔医療とは
遠隔医療とは、情報通信機器を活用して行う健康増進や医療に関する行為を広く指す概念です。
厚生労働省の「オンライン診療その他の遠隔医療の推進に向けた基本方針」では、遠隔医療を「情報通信機器を活用した、健康増進、医療に関する行為」と整理しています。
遠隔医療には、医師と患者の間で行われるものだけでなく、離れた場所にいる医師・医療従事者同士をつないで診断や診療を支援するものも含まれます。
そのため、
「遠隔医療=オンライン診療」
ではありません。
オンライン診療は遠隔医療の一つの形態です。
遠隔医療を理解する際には、「医療をオンライン化するもの」と捉えるよりも、
「情報通信技術を活用して、距離によって生じる医療上の制約を補完する仕組み」
と考えると分かりやすくなります。
医療機関が遠隔医療を検討する場合も、最初にシステムや機器を選定するのではなく、「どの医療課題を、誰と誰をつなぐことで解決するのか」を明確にすることが重要です。
厚生労働省の同ページでは、基本方針、事例集、導入状況、関連通知、調査・研究報告書などがまとめて公開されています。
遠隔医療とオンライン診療の違い
遠隔医療とオンライン診療は同じ意味ではありません。
遠隔医療が情報通信機器を活用した医療等を広く含む概念であるのに対し、オンライン診療はその一部です。
厚生労働省はオンライン診療を、医師と患者の間で情報通信機器を通して診察・診断を行い、診断結果の伝達や処方等をリアルタイムで行う行為として整理しています。
整理すると、
遠隔医療
=情報通信機器を活用した医療等の広い概念
オンライン診療
=遠隔医療のうち、医師と患者の間でリアルタイムに行われる診療
という関係になります。
医療機関や医療関連企業が遠隔医療を検討する際には、「オンライン診療を導入するか」という視点だけでは不十分です。
医師と患者をつなぐ必要があるのか、医師と専門医をつなぐ必要があるのか、地域の医療機関同士をつなぐ必要があるのかによって、必要となるシステム、機器、運用体制は異なります。
遠隔医療の主な種類
遠隔医療は、「誰と誰をつなぐのか」という視点で整理すると理解しやすくなります。
代表的なのが、医師と患者をつなぐ「D to P」と、医師・医療従事者同士をつなぐ「D to D」です。
厚生労働省の基本方針でも、医師と患者間の遠隔医療と、医師等の医療従事者間の遠隔医療を分けて整理しています。
D to P|医師と患者をつなぐ遠隔医療
D to Pは、Doctor to Patientの略で、医師と患者を情報通信機器でつなぐ形態です。
代表例がオンライン診療です。
患者が医療機関へ移動せず、自宅等から医師の診療を受けることで、通院負担の軽減や継続的な診療につながる可能性があります。
ただし、オンライン診療では対面診療と異なり、触診等ができず、医師が得られる情報に制約があります。
そのため、厚生労働省は対面診療と適切に組み合わせて実施することを基本としています。
D to D|医師・医療従事者間をつなぐ遠隔医療
D to Dは、Doctor to Doctorの略で、離れた場所にいる医師や医療従事者を情報通信技術によってつなぎ、診断や診療等を支援する形態です。
厚生労働省の基本方針では、医療従事者間の遠隔医療として、
- 遠隔放射線画像診断
- 遠隔病理画像診断
- 遠隔コンサルテーション
- 遠隔カンファレンス
- 遠隔救急支援
- 12誘導心電図伝送
- 遠隔ICU
- 遠隔手術指導
などが示されています。
D to D型の遠隔医療では、患者が直接オンライン診療を受けることだけが目的ではありません。
たとえば、地域の医療機関と大学病院・専門医をつなぐことで、距離を越えて専門的な知見や医療技術を活用する仕組みを構築することも遠隔医療の重要な形態です。
遠隔医療に期待される役割
遠隔医療の価値は、「遠くにいる人と映像でつながること」そのものではありません。
情報通信技術を利用することで、従来は距離や医療資源の偏在によって難しかった医療提供や医療連携を補完できる点にあります。
厚生労働省は、医師・患者間の遠隔医療について、通院に伴う患者負担の軽減、継続治療、医療従事者の負担軽減、医療資源の柔軟な活用などを期待される役割として挙げています。
また、医療従事者間の遠隔医療については、医療資源の少ない地域における医療確保への貢献、効率的・効果的な医療提供体制の整備、医療従事者の働き方改革への寄与などを挙げています。
医療機関・医療関連企業の視点では、主に次のような可能性があります。
- 地域を越えた専門医療へのアクセス
- 大学病院・基幹病院と地域医療機関との連携
- 専門医による診断・診療支援
- 医療技術・知見の共有
- 患者・医療従事者の移動負担の軽減
- 限られた医療人材の有効活用
- 地域医療提供体制の補完
ただし、遠隔医療は対面医療をすべて置き換えるものではありません。
どの場面を遠隔化し、どの場面では対面対応が必要なのかを設計することが重要です。
遠隔医療を支える主な技術
遠隔医療は、一つのシステムだけで成立するものではありません。
実施する医療の内容に応じて、複数の技術や機器を組み合わせます。
たとえば、
- 映像・音声通信
- 高精細映像
- 医用画像
- 電子カルテ等の医療情報
- モニター
- カメラ
- 各種医療機器
- ネットワーク
- 情報セキュリティ
などが関係します。
特にD to D型の遠隔医療では、「映像がつながる」だけでは十分でない場合があります。
診療や技術指導に必要な情報を、離れた医師がどの程度正確に把握できるかが重要だからです。
そのため、システム選定では通信機能や画質などのスペックだけでなく、
- 遠隔地の医師が何を確認する必要があるのか
- どの情報をどのタイミングで共有する必要があるのか
という医療現場側の要件から逆算して設計することが重要です。
遠隔医療を導入する医療機関が検討すべきこと
医療機関が遠隔医療を導入する際には、「どのシステムを購入するか」から検討を始めないことが重要です。
まず、遠隔医療によって解決したい医療上・運営上の課題を明確にします。
導入目的を明確にする
遠隔医療を導入する目的は医療機関によって異なります。
たとえば、
- 患者の通院負担を軽減したい
- 専門医不足を補完したい
- 地域医療機関を支援したい
- 大学病院の専門知識や医療技術を地域へ届けたい
- 医師の移動負担を軽減したい
- 複数施設間の医療連携を強化したい
などが考えられます。
目的が異なれば、必要なシステムや運用も異なります。
誰と誰をつなぐのかを決める
次に、
- 医師と患者
- 医師と医師
- 病院と診療所
- 大学病院と地域医療機関
- 医療機関と介護・在宅現場
など、遠隔医療によって誰と誰をつなぐのかを明確にします。
ここが曖昧なままでは、必要な機器や運用体制を具体化できません。
実際の診療フローに組み込む
遠隔医療はシステムを設置しただけでは定着しません。
誰が接続を準備するのか、患者情報をどのように共有するのか、遠隔側と現地側で誰が何を担当するのか、通信障害時にどう対応するのかなど、実際の診療フローまで設計する必要があります。
「導入すること」ではなく、「日常の医療として継続して使えること」をゴールにすることが重要です。
遠隔医療を事業化する医療関連企業が検討すべきこと
医療関連企業にとっても、遠隔医療市場への参入は、単にシステムや機器を開発・販売すれば成立するものではありません。
重要なのは、技術を医療現場の具体的な課題と結びつけることです。
たとえば高精細映像、通信技術、モニター、医療機器等に優れた技術があっても、
「誰が、どの医療現場で、何のために使うのか」
が明確でなければ、医療機関への導入は進みにくくなります。
そのため医療関連企業には、
- 対象となる医療課題の明確化
- 利用する医療機関・診療科の設定
- 医療現場でのユースケース設計
- 医療機関との実証
- 導入後の運用設計
- 販売チャネルの構築
- 医療機関への導入支援
など、製品開発以外の事業設計も必要になります。
遠隔医療事業では、「技術があること」と「医療現場で使われ続けること」の間を埋める取り組みが重要です。
遠隔医療を導入・運用する際の主な課題
遠隔医療にはさまざまな可能性がある一方、導入すれば自動的に医療課題が解決するわけではありません。
医療機関・医療関連企業が検討すべき主な課題として、
- 通信環境
- 情報セキュリティ
- 個人情報・医療情報の取扱い
- 機器・システムの操作性
- 医療従事者の役割分担
- 責任範囲
- 緊急時・通信障害時の対応
- 導入・運用コスト
- 院内外の業務フロー
- 医療従事者への教育
などがあります。
特にD to D型では、遠隔側と現地側の医師・医療従事者の役割や責任範囲、患者情報の共有、システムの安全管理、不測の事態への対応などを事前に整理することが重要です。
厚生労働省の基本方針でも、医療従事者間の遠隔医療について、役割・責任範囲、患者の医療情報の共有、システムの安全管理、緊急時等への対応が課題として整理されています。
遠隔医療では、技術の導入そのものよりも、「医療現場で安全かつ継続的に運用できる仕組み」をつくれるかが成否を左右します。
遠隔医療の導入状況
遠隔医療は将来構想だけではなく、すでに医療現場で利用されています。
厚生労働省が公開している令和5年医療施設調査の抜粋では、遠隔画像診断を実施する施設は病院1,655か所・一般診療所1,972か所、遠隔病理診断は病院243か所・一般診療所458か所、遠隔在宅医療は病院73か所・一般診療所998か所とされています。
ここで重要なのは、「遠隔医療」という一つの仕組みが一律に普及しているわけではないことです。
遠隔画像診断、遠隔病理診断、オンライン診療、医療従事者間の支援など、用途ごとに導入の目的や必要な体制は異なります。
したがって、自院や自社で遠隔医療を検討する際には、遠隔医療全体の市場動向だけでなく、自らが解決しようとしている医療課題に近い導入事例を確認することが有効です。
遠隔医療を導入するまでの基本的な流れ
遠隔医療の導入では、システムや機器を先に選ぶのではなく、解決したい医療課題を明確にしたうえで、必要な体制や技術を順に設計していくことが重要です。
ここでは、医療機関・医療関連企業が遠隔医療を導入・事業化する際の基本的な流れを6つのステップで整理します。
遠隔医療を導入すること自体を目的にせず、医療アクセス、専門医不足、地域連携、医療従事者の移動など、解決したい課題を整理します。
D to P、D to Dなど、誰と誰をつなぎ、どのような医療・支援を行うのかを明確にします。
実際の診療や支援に必要な映像、音声、医療情報、機器、通信環境等を整理し、目的に適したシステムを検討します。
遠隔側と現地側の役割、情報共有、患者対応、トラブル時の対応など、実際の運用フローを設計します。
可能であれば限定した診療科、施設、地域等から開始し、医療従事者の評価や運用上の課題を確認しながら改善します。
導入効果、運用負担、コスト等を確認し、他施設・他地域への展開や事業化を検討します。
遠隔医療についてよくある質問
遠隔医療を導入・活用する医療機関や、遠隔医療関連事業を検討する企業からは、オンライン診療との違いや必要なシステム、導入方法などについてさまざまな疑問が生じます。
ここでは、遠隔医療を検討する際に押さえておきたい基本的なポイントをQ&A形式で整理します。
遠隔医療とはどのような医療ですか?
遠隔医療とは、情報通信機器を活用した健康増進や医療に関する行為を広く指します。
患者と医師をつなぐオンライン診療だけでなく、医師・医療従事者間で行う遠隔画像診断、遠隔病理診断、遠隔コンサルテーション、遠隔カンファレンス、遠隔ICU、遠隔手術指導なども含まれます。
遠隔医療とオンライン診療は同じですか?
同じではありません。
遠隔医療は情報通信機器を活用した医療等を広く含む概念で、オンライン診療はその一つです。
オンライン診療は、医師と患者を情報通信機器でつなぎ、リアルタイムで診察・診断、診断結果の伝達や処方等を行う診療です。
遠隔医療は患者と医師をつなぐものだけですか?
いいえ。
医師と医師、大学病院と地域医療機関など、医療従事者間をつなぐD to D型の遠隔医療もあります。
専門医による診断支援、遠隔カンファレンス、遠隔ICU、遠隔手術指導など、さまざまな活用方法があります。
遠隔医療を導入するには専用システムが必要ですか?
必要となるシステムや機器は、実施する遠隔医療の内容によって異なります。
重要なのは、最初に製品を選ぶことではなく、誰と誰をつなぎ、どのような医療情報を共有し、何を実現する必要があるのかを整理することです。
そのうえで、通信、映像、医療情報、セキュリティ、医療機器等の要件を検討します。
遠隔医療を導入すれば医療従事者の負担は減りますか?
遠隔医療には、移動負担の軽減や医療資源の効率的な活用などが期待されますが、導入しただけで必ず負担が減るわけではありません。
新たな機器操作、情報共有、接続準備等の業務が発生する場合もあるため、実際の診療フローに合わせた運用設計が重要です。
まとめ|遠隔医療とは、ICTを活用して距離を越えて医療を支える仕組みです
遠隔医療とは、情報通信機器を活用して行う健康増進や医療に関する行為を広く指す概念です。
オンライン診療は遠隔医療の一つであり、遠隔医療には患者と医師をつなぐD to Pだけでなく、医師・医療従事者同士をつなぐD to Dなど、さまざまな形態があります。
医療機関・医療関連企業が遠隔医療に取り組む際には、
- 解決する医療課題を明確にする
- 誰と誰をつなぐのかを決める
- 必要な医療情報・技術を整理する
- 実際の診療フローを設計する
- 役割と責任範囲を明確にする
- 情報セキュリティや緊急時対応を整える
- 導入後も継続して運用できる体制をつくる
といった視点が重要です。
遠隔医療で重要なのは、最新のシステムや機器を導入すること自体ではありません。
「どの医療課題を、情報通信技術によってどのように解決するのか」を起点として、技術と医療現場をつなぐ仕組みを構築することが重要です。
「遠隔医療の導入・事業化・医療機関への展開を検討している方」
本記事の情報について
本記事は、厚生労働省が公表する「オンライン診療その他の遠隔医療の推進に向けた基本方針」、遠隔医療に関する通知・調査等の公表情報を踏まえ、遠隔医療の導入・活用を検討する医療機関・医療関連企業に向けて、基本的な仕組みや導入上のポイントを整理したものです。
遠隔医療に関する制度、診療報酬、情報セキュリティ等の要件は変更される場合があります。実際に遠隔医療を導入・運用する際には、最新の厚生労働省通知・指針等をご確認ください。
厚生労働省「オンライン診療その他の遠隔医療の推進に向けた基本方針」
執筆者:松村 厚
アップストリーム合同会社 代表社員
事業開発、営業・販路開拓、販売チャネル構築、医療・歯科領域の事業承継・M&A等の経験を経て、2026年にアップストリーム合同会社を設立。現在は医療コンサルティングを軸に、医療・ヘルスケア領域の事業推進を支援しています。

