地域医療は、住民が暮らす地域で必要な医療を受けられる体制を支える重要な仕組みです。
一方、日本の地域医療は、人口減少や高齢化、医師をはじめとする医療従事者の地域偏在、医療機関の役割分担、救急医療や在宅医療への対応など、さまざまな課題を抱えています。
地域によって人口構造、医療機関の配置、医師数、交通事情などは異なるため、「全国一律の問題」として考えるだけでは十分ではありません。人口が減少する地域では医療提供体制そのものの維持が課題となる一方、高齢者が増加する地域では、救急・在宅医療・介護との連携などへの需要が高まることも考えられます。
厚生労働省も、2040年とその先を見据え、人口構造や医療ニーズの変化に対応しながら、地域ごとに医療機関の機能分化・連携、人材確保、在宅医療、介護との連携などを含めた医療提供体制の構築を進めています。
本記事では、地域医療が抱える主な課題・問題点を整理し、その背景と、持続可能な地域医療を実現するために必要となる対策について、厚生労働省の公表情報をもとに分かりやすく解説します。
地域医療が抱える課題とは
CHALLENGES IN COMMUNITY MEDICAL CARE
地域医療の課題とは、地域に住む人が必要なときに必要な医療を受けられる体制を、将来にわたって維持していくうえで生じているさまざまな問題を指します。
代表的なものとして、医師・医療従事者の地域偏在、人口減少と高齢化、医療機関の機能・役割分担、救急医療の維持、在宅医療への対応、医療と介護の連携などがあります。
重要なのは、これらの問題がそれぞれ独立しているわけではないことです。
例えば、人口減少によって地域の医療従事者や患者数が減少すれば、医療機関の経営や人材確保が難しくなり、結果として地域で維持できる医療機能にも影響する可能性があります。
一方、高齢化によって医療・介護の複合的なニーズが増えれば、病院だけで医療を完結させるのではなく、診療所、在宅医療、介護事業者などを含めた地域全体での連携が重要になります。
地域医療の問題点を考える際には、一つの課題だけを見るのではなく、「その地域で将来どのような医療が必要になり、それを誰がどのように提供するのか」という医療提供体制全体の視点が必要です。
地域医療の主な課題・問題点
地域医療が抱える課題は地域によって異なりますが、全国的に共通して検討されている代表的な問題を整理すると、次のようになります。
医師・医療従事者の地域偏在
地域医療における大きな課題の一つが、医師をはじめとする医療従事者の地域偏在です。
医師の総数だけではなく、「どの地域に、どの診療科の医師がいるのか」という分布が重要になります。
厚生労働省は、都道府県や二次医療圏ごとの医師の多寡を客観的に比較・評価する「医師偏在指標」を設け、医師確保計画などを通じて偏在対策を進めています。2026年4月版の医師偏在指標も公表されています。
医師が不足する地域では、診療体制の維持だけでなく、医師一人あたりの負担、救急対応、専門医療へのアクセスなどにも影響する可能性があります。
人口減少と高齢化
地域医療は、人口構造の変化にも大きな影響を受けます。
人口が減少する地域では、医療従事者の確保や医療機関の経営、診療機能の維持が難しくなる可能性があります。
一方、高齢者の割合が高まる地域では、救急医療、慢性疾患、在宅医療、介護との連携などの重要性が高まります。
厚生労働省も、2040年に向けた地域医療構想について、85歳以上の高齢者の増加と人口減少がさらに進むことを前提として、地域の医療ニーズの質・量の変化に対応する医療提供体制の構築を目指しています。
つまり、単純に「病院や病床を増やせばよい」という問題ではなく、将来の人口と医療需要に合わせて地域の医療機能を考える必要があります。
医療機関の機能・役割分担
すべての医療機関が同じ機能を持つことは現実的ではありません。
高度な急性期医療を担う病院、地域の救急を担う病院、回復や慢性期を支える医療機関、外来診療を担う診療所、在宅医療を支える医療機関など、それぞれの役割があります。
地域医療では、こうした医療機関が適切に役割を分担し、必要に応じて患者をつないでいくことが重要です。
厚生労働省の2040年に向けた地域医療構想でも、急性期拠点機能、高齢者救急・地域急性期機能、在宅医療等連携機能、専門等機能など、地域に必要な医療機関機能を確保し、役割分担を協議する方向が示されています。
救急医療体制の維持
救急医療は、地域住民が安心して暮らすために欠かせない医療機能です。
しかし、医師や医療従事者が限られる地域では、24時間の救急体制を複数の医療機関がそれぞれ維持することが難しい場合があります。
高齢者の救急搬送が増加する地域では、救急搬送後の入院医療だけでなく、回復後の在宅復帰や介護との連携まで含めた体制を考える必要があります。
そのため、地域全体で「どの医療機関がどの救急機能を担うのか」を整理することが重要になります。
専門医療へのアクセス
地域によっては、特定の診療科や専門医が少なく、必要な専門医療を地域内だけで完結することが難しい場合があります。
特にへき地では、厚生労働省がへき地医療の体制構築に関する指針を設け、へき地診療所やへき地医療拠点病院等を含む支援体制を整備しています。
すべての地域にあらゆる専門医を配置することが難しい以上、「専門医を配置する」だけでなく、「必要なときに専門的な医療へつながる仕組み」を構築することも重要です。
在宅医療への対応
高齢化が進むなかでは、病院内だけで医療を完結させるのではなく、患者の生活の場で医療を提供する在宅医療も重要になります。
退院後も医療を必要とする患者が地域で生活するためには、病院、診療所、訪問看護、薬局、介護サービスなどの連携が必要です。
2040年に向けた地域医療構想でも、入院医療だけでなく、外来・在宅医療や介護との連携を含めて医療提供体制を構築する方向が明確になっています。
医療と介護の連携
高齢者では、医療と介護の両方を必要とするケースが少なくありません。
病院で治療を受けて退院した後、自宅や介護施設で生活を続けるためには、医療と介護が切れ目なくつながる必要があります。
そのため地域医療では、「治療が終われば医療機関の役割も終わる」のではなく、退院後の生活まで含めて、地域の関係者が連携することが重要です。
なぜ地域医療の課題が深刻になるのか
地域医療の問題点は、単一の原因によって生じているわけではありません。
人口、医療需要、人材、医療機関の配置など、複数の変化が重なることで課題が複雑化します。
地域によって人口構造が異なる
人口減少の速度や高齢化の状況は地域によって異なります。
そのため、現在の医療提供体制をそのまま維持することが将来も最適とは限りません。
地域ごとの人口構造と将来の医療需要を把握し、それに応じた医療機能を考える必要があります。
医療資源を均等に配置することが難しい
医師、看護師、専門医療機能、高度医療機器などの医療資源には限りがあります。
すべての地域に同じ医療機能を配置することは難しいため、地域内での役割分担だけでなく、必要に応じて地域を越えた医療機関同士の連携も重要になります。
医療ニーズそのものが変化している
人口構造が変われば、必要とされる医療も変化します。
高齢者が増える地域では、救急医療、慢性疾患への対応、在宅医療、介護との連携などの重要性が高まります。
厚生労働省が地域医療構想を2040年とその先を見据えた仕組みに移行しているのも、こうした医療ニーズの変化に対応するためです。
地域医療の課題を解決するために必要な対策
地域医療の課題には、一つの施策だけで対応することは困難です。
地域の実情に応じて、人材、医療機関の機能、連携、在宅医療、ICTなどを組み合わせて医療提供体制を構築する必要があります。
医師・医療従事者の確保と偏在対策
医療従事者を確保するとともに、地域間・診療科間の偏在を改善する取組が必要です。
厚生労働省は、医師偏在指標、医師確保計画、地域枠などを含む複数の施策を進めています。2026年6月には第8次医師確保計画の後期ガイドラインも示されています。
ただし、人材確保だけですべての地域医療の問題が解決するわけではありません。
限られた医療従事者で必要な医療を提供できる体制そのものを考えることも必要です。
医療機関の機能分化・連携
地域内の医療機関がそれぞれの強みや機能を生かし、役割を分担することが重要です。
患者の状態に応じて、急性期から回復、在宅まで切れ目なく医療をつなげることで、地域全体として必要な医療を提供する体制を構築します。
地域医療構想は、単純な病床削減や医療機関の統廃合を目的とするものではなく、地域の関係者による協議を通じて必要な医療機能を確保する仕組みです。厚生労働省もこの点を明記しています。
在宅医療・介護との連携強化
入院医療だけでなく、退院後の在宅医療や介護まで含めた連携体制を構築する必要があります。
病院、診療所、訪問看護、薬局、介護事業者などが情報を共有し、それぞれの役割を担うことで、患者が地域で生活しながら必要な医療を受けられる体制につながります。
ICT・遠隔医療の活用
すべての地域にあらゆる専門医を配置することが難しい以上、情報通信技術を活用して医療機関や専門医をつなぐことも選択肢の一つです。
遠隔医療では、患者と医師をつなぐオンライン診療だけでなく、地域の医師と大学病院・専門医療機関等の専門医をつなぎ、診療を支援するDtoDなどの形があります。
ただし、ICTや遠隔医療を導入すれば地域医療の問題が自動的に解決するわけではありません。
「どの地域医療課題を解決するために使うのか」を明確にし、医療機関の役割分担や運用体制と組み合わせることが重要です。
地域ごとのデータに基づいて医療体制を考える
地域医療の課題は全国一律ではありません。
人口、年齢構成、患者の流出入、医師数、病床数、診療実績などを確認し、「その地域では将来どの医療機能が必要なのか」を考えることが重要です。
厚生労働省も、構想区域別の病床数、医療機関の診療実績、医師数、患者の流出入、将来の医療需要などを「見える化」し、地域医療構想の協議に活用しています。2026年度には患者の流出入の見える化も追加されています。
地域医療の課題と地域医療構想の関係
地域医療の課題を考えるうえで重要になる政策の一つが「地域医療構想」です。
地域医療構想とは、都道府県が中長期的な人口構造や地域の医療ニーズの質・量の変化を見据え、良質かつ適切な医療を効率的に提供できる体制を確保するために策定するものです。
従来の地域医療構想では病床の機能分化・連携が大きなテーマでしたが、2040年に向けた地域医療構想では、病床だけでなく、外来・在宅医療、介護との連携、人材確保なども含め、地域の医療提供体制全体を対象とする方向へ広がっています。
つまり、地域医療の課題は、
「病床が足りるか」
だけではなく、
「その地域で必要な医療を、誰が、どこで、どのようにつないで提供するのか」
という問題として考える必要があります。
地域医療の課題は地域ごとに異なる
地域医療について、「地方では医師不足」「都市部では医療機関が多い」といった単純な構図だけで捉えることはできません。
人口が減少する地域、高齢者が増加する地域、患者が周辺地域へ流出している地域、逆に周辺地域から患者が集まる地域など、地域ごとに状況は異なります。
また、同じ都道府県内でも、医療圏によって医師数、病床、診療科、救急体制、在宅医療などの状況が異なる場合があります。
したがって、地域医療の課題を解決するためには、全国共通の対策だけでなく、地域ごとのデータと実情を把握し、その地域に必要な医療提供体制を設計することが重要です。
地域医療の課題解決に遠隔医療が果たせる役割
医師や専門医などの医療資源を、すべての地域へ均等に配置することには限界があります。
そこで選択肢の一つとなるのが、遠隔医療や通信・映像技術を活用して、地域の医療機関と大学病院・専門医療機関などをつなぐ方法です。
例えば、地域の医師が離れた専門医から診療上の支援を受けたり、医療機関同士で映像や医療情報を共有したりすることで、専門医が常駐していない地域でも専門的な知見へアクセスできる可能性があります。
ただし、遠隔医療は地域医療を置き換えるものではありません。
地域の医療機関が担う対面診療を基本としながら、距離によって届きにくい専門的な医療や知見を補完する仕組みとして活用することが重要です。
地域医療の今後
今後の地域医療では、「現在ある医療体制をそのまま維持する」ことだけを目標にするのではなく、人口構造や医療ニーズの変化に合わせて医療提供体制を変えていくことが必要になります。
厚生労働省が進める2040年に向けた地域医療構想でも、85歳以上人口の増加や人口減少を見据え、すべての地域・世代の患者が必要な医療・介護を受けられるとともに、医療従事者も持続可能な働き方を確保できる医療提供体制を目指しています。
そのためには、
- 医師・医療従事者を確保する
- 医療機関の役割を整理する
- 医療機関同士をつなぐ
- 在宅医療・介護と連携する
- 必要に応じてICT・遠隔医療を活用する
- 地域ごとのデータをもとに体制を見直す
といった複数の取組を組み合わせる必要があります。
重要なのは、「病院を残すか、減らすか」という二者択一で地域医療を考えないことです。
地域住民に必要な医療を将来にわたって提供するために、「どの医療機能を地域に確保し、それぞれの医療機関や関係者がどのように役割を分担・連携するのか」を考えることが、これからの地域医療では重要になります。
地域医療の課題についてよくある質問
FAQ
地域医療の課題について、医師不足や高齢化、医療機関の役割、地域医療構想など、よくある疑問を分かりやすく解説します。
地域医療の主な課題は何ですか?
地域医療の主な課題には、医師・医療従事者の地域偏在、人口減少と高齢化、医療機関の機能・役割分担、救急医療体制の維持、専門医療へのアクセス、在宅医療、医療と介護の連携などがあります。
地域医療で医師不足が問題になるのはなぜですか?
医師が不足する地域では、診療体制の維持だけでなく、救急医療や専門医療へのアクセス、医師一人あたりの負担などにも影響する可能性があります。また、全国の医師数だけではなく、地域や診療科による偏在も重要な問題です。
高齢化は地域医療にどのような影響を与えますか?
高齢化によって、救急医療、慢性疾患への対応、在宅医療、介護との連携などの需要が高まる可能性があります。そのため、入院医療だけでなく、外来・在宅・介護まで含めた医療提供体制が重要になります。
地域医療構想とは何ですか?
地域医療構想は、都道府県が中長期的な人口構造や医療ニーズの変化を見据え、地域に必要な医療提供体制を確保するために策定するものです。2040年に向けた地域医療構想では、病床だけでなく外来・在宅医療、介護連携、人材確保なども含めた体制づくりが進められています。
遠隔医療で地域医療の課題は解決できますか?
遠隔医療だけですべての地域医療課題を解決できるわけではありません。ただし、地域の医療機関と専門医をつないだり、距離によって届きにくい専門的な知見を届けたりすることで、地域医療を補完する手段の一つになる可能性があります。
まとめ|地域医療の課題は地域全体の医療提供体制として考えることが重要
地域医療は、医師・医療従事者の偏在、人口減少と高齢化、医療機関の役割分担、救急医療、専門医療へのアクセス、在宅医療、医療と介護の連携など、さまざまな課題を抱えています。
これらの問題点は相互に関係しているため、一つの対策だけで解決することは困難です。
また、人口構造や医療資源、患者の流出入などは地域によって異なるため、全国一律ではなく、それぞれの地域の実情に応じた医療提供体制を考える必要があります。
今後は、医師・医療従事者の確保に加えて、医療機関の機能分化・連携、在宅医療・介護との連携、ICT・遠隔医療の活用などを組み合わせ、「地域で必要な医療をどのように持続可能な形で届けるのか」という視点が重要になります。
地域医療そのものの意味や役割、地域医療構想との関係については、以下の記事で詳しく解説しています。
アップストリーム合同会社では、地域ごとの医療課題を整理し、医療機関・関連企業・地域関係者との連携や、遠隔医療・通信技術等の活用を通じて、持続可能な医療提供体制の構築を支援しています。
本記事の情報について
本記事は、厚生労働省が公表する地域医療構想、医師確保・医師偏在対策、へき地医療等に関する情報を確認し、アップストリーム合同会社の医療・ヘルスケア領域における事業開発、医療機関への導入支援、営業・販路開拓等の実務経験を踏まえて作成しています。
地域医療に関する制度、計画、医療提供体制等は今後変更される場合があります。最新情報については、厚生労働省、各都道府県等の公表情報をご確認ください。
執筆者:松村 厚
アップストリーム合同会社 代表社員
事業開発、営業・販路開拓、販売チャネル構築、医療・歯科領域の事業承継・M&A等の経験を経て、2026年にアップストリーム合同会社を設立。現在は医療コンサルティングを軸に、医療・ヘルスケア領域の事業推進を支援しています。

